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「さあ、着きましたぞ」
「うわあ、おっきい」
澄み渡った青空の下、レンがその高大な建物を見て、感歎の声を漏らしている。
それは、七条大路に面して南に門をどんと構えて、やって来る者を盛大に迎えてくれている。
―「ならば、ちょうどいい場所がありますぞ」―
それは、私、空也が東市で善友の蓮性と再会した時のことだった。羅城門で苦しみに臥している病女がおり、その人をどうにかして助けたいと思っている。野ざらしの門ではなく、どこか安息に過ごすことのできる場所はないものか。その話を聞いた蓮性はしばらく考えたのち、私に言ったのだった。
ちょうどいい場所がある、と。
「本当か、それはどこだ?」
「鴻臚館ですよ。ここから少しばかり西に行ったところにあります」
鴻臚館、
それはかつて、海の向こうから来る渤海国の使者をおもてなしするために、都に建てられた迎賓館だ。
しかし数十年前(延長四年〈九二六〉)に渤海国が滅んでからはその役割を終え、現在(天慶元年〈九三八〉)は使われることもなくなって建物ごと放置されているのだという。
「古いですが、そこならば雨風も凌げますし、安全に過ごすこともできるかと」
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そういうわけで私たちは今、鴻臚館の前に来ているのだ。
荷車に羅城門に臥していた病女と、その妹のレン、そして大きな白い犬の小太郎を乗せて、私たちは今ここにいる。
「空也さま、はやくはやく!」
荷車から降りたレンが、おおはしゃぎで私に呼びかけている。その顔には、全体を覆っていた黒く汚れた垢はもうない。かわりに黄色の肌がつやめいてきらめいているのが見えた。
よし、行こう。
私は、善友である蓮性と並んで、青空に下に聳え立つ鴻臚館を見据えたのだった。
と・・・・そこへ・・・・。
鴻臚館の上、雲一つない青空の天蓋。そこで燦然と輝く陽の光が私たちを照らし出す。まるで私たちの到着を祝福しているかのように。
空よ、陽の光よ、そなたたちも私たちを讃えてくれているのか。守ってくれているのか。
私は穏やかな空気に包まれて、心静かに手を合わせ、口に称えてつぶやくのであった。
「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」
すべての大地に降り注ぎ、すべての旅人のゆくしるべを照らす、慈悲の光を浴びながら。
「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」
ありがとう、空よ、大地よ、ありがとう。
「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」
「第6遊行 旅空の下で」(完)
この記事を書いた人
じゅうべい(Jubei)
みなさんこんにちは。今日も元気がとまらない地球人、じゅうべいです。好きなことは遊ぶこと(漫画に映画、音楽(Jロック等)にカフェ巡り)です。
よろしくお願いします。