「さあ、着きましたぞ」
「うわあ、おっきい」
澄み渡った青空の下、レンがその高大な建物を見て、感歎の声を漏らしている。

それは、七条大路に面して南に門をどんと構えて、やって来る者を盛大に迎えてくれている。

そしてその門をくぐった先には、高大な瓦葺の建物が―だいぶ古びてしまっているとはいえ―今もなお荘厳な威容を誇って静かにそこにそびえ建っている。
大きな鳥が高らかに鳴き、海の向こうからやって来る使者の来訪を告げる。そんな意味を持つ「鴻臚(こうろ)」の二文字を戴きし殿堂が今、私たちの眼前に巍然として聳え立っている。

たくさんの人で賑わう様子

―「ならば、ちょうどいい場所がありますぞ」―

それは、私、空也が東市で善友の蓮性と再会した時のことだった。羅城門で苦しみに臥している病女がおり、その人をどうにかして助けたいと思っている。野ざらしの門ではなく、どこか安息に過ごすことのできる場所はないものか。その話を聞いた蓮性はしばらく考えたのち、私に言ったのだった。

ちょうどいい場所がある、と。

「本当か、それはどこだ?」
「鴻臚館ですよ。ここから少しばかり西に行ったところにあります」

鴻臚館、

それはかつて、海の向こうから来る渤海国の使者をおもてなしするために、都に建てられた迎賓館だ。
海の向こうからやってくるイメージ

渤海と交流のあった昔は、その場所で一流の学者や文人たちと渤海の使者たちとの間に詩文の交歓会が催されるなど種々の交流があり、海外に開かれた窓としても機能していた。

しかし数年前(延長八年〈九二六〉)に渤海国が滅んでからはその役割を終え、現在は使われることもなくなって建物ごと放置されているのだという。

「古いですが、そこならば雨風も凌げますし、安全に過ごすこともできるかと」

そういうわけで私たちは今、鴻臚館の前に来ているのだ。

都の南玄関たる羅城門を過ぎ、都の中央を南北に貫く朱雀大路を少し北に進み、七条大路にさしかかる。すると、すぐ左手に巍然としてそびえ立つ、その殿堂の目の前に。

荷車に羅城門に臥していた病女と、その妹のレン、そして大きな白い犬の小太郎を乗せて、私たちは今ここにいる。

「空也さま、はやくはやく!」
荷車から降りたレンが、おおはしゃぎで私に呼びかけている。その顔には、全体を覆っていた黒く汚れた垢はもうない。かわりに黄色の肌がつやめいてきらめいているのが見えた。

よし、行こう。

私は、善友である蓮性と並んで、青空に下に聳え立つ鴻臚館を見据えたのだった。

と・・・・そこへ・・・・。

鴻臚館の上、雲一つない青空の天蓋。そこで燦然と輝く陽の光が私たちを照らし出す。まるで私たちの到着を祝福しているかのように。

青空から照らされる陽の光

空よ、陽の光よ、そなたたちも私たちを讃えてくれているのか。守ってくれているのか。

私は穏やかな空気に包まれて、心静かに手を合わせ、口に称えてつぶやくのであった。

空也の画像

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

すべての大地に降り注ぎ、すべての旅人のゆくしるべを照らす、慈悲の光を浴びながら。

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

ありがとう、空よ、大地よ、ありがとう。

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

「第6遊行 旅空の下で」(完)

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