adsense1

adsense4

後編:俺たちに明日はない?

「ねえさま、目を覚ましたよ」
女の子の声がする。気がつくと、さっきまで俺を包み込んでくれていた白い光はなくなっていた。かわりに今の俺の目に見えているのは、木造りの天井だ。そしてどうやら俺は、木造りの床の上に敷かれた莚の上に横たえられているようだった。

しばらくすると、小さな童女が白地に薄紫の模様のはいった衣を着た女を連れて、俺の前にやってきた。とても美しく、綺麗な二人だ。髪の毛を後ろで結ってまとめている小さい童女。彼女の肌は白く輝き、頬に少し赤みがさしている。年は八つといったところだろうか。一方の白地に薄紫の模様のはいった衣を着た女はさらに美しい人で、どこか気品のある佇まいを感じさせる女だった。そして何よりその目が、非常に慈悲深い光をたたえていたのである。

「ああ、気がつかれたのですね」

その女は、とてもやさしい声をしていた。まるで、凍りついた心を慈悲の光で溶かしてくれるような、そんな温かく、やさしい声だった。

「ここは、どこだ。俺は、いったい」
俺はなんとかして身体を動かそうと上半身を自力で持ち上げてみる。しかし、やはりまだ思うように動いてくれそうにない。すると、女が俺の腰に手をまわして身を起すのを手伝ってくれた。
「ダメです、まだ無理をしてはなりません」
女は俺を支えながら、事態が呑み込めずにいる俺にこう教えてくれた。
「あなたは路上で倒れていたのですから。瀕死の重傷を負って」

・・・・ああ、そうか・・・・・

adsense2

俺は思い出した。暗闇に包まれた中で生き倒れていたことを。そしてなぜか、身体を動かそうにも痛みでまったく動かせなかったことを。そして、闇の中で自らの運命を呪い、俺たち下賤の民を見捨てて救おうとしない仏陀や菩薩を呪っていたことを。

そして・・・・・・・。

ああ、思い出せば思い出すほど、最悪な気分がどんどん蘇ってくる。吐き気がして、胸が絞めつけられる。俺はこの世に、今ここに生きている俺の人生そのものに、心から絶望していたのだ。その思いが一気に今、蘇ってきていた。

「それはそれは、ひどい傷でした。もし蓮性様が見つけて連れてこなければ、あなたは今ごろ」

なに?俺をここまで運んできた、だと?

絶望の色に染められた俺の心は、さっきまで感じていた女の温もりをもう忘れていた。俺の心は、今やどす黒い絶望に支配されていた。

「でもよかった。無事に目覚めてくださって」

よかった・・・・・?

「これも、阿弥陀仏様が救ってくださったおかげなのでしょう」

なに・・・・?阿弥陀仏様・・・・だと?

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

阿弥陀仏の画像

やめろ、やめてくれ・・・・・・。

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

だまれ・・・だまれだまれ。

「だまれ!!」
気がつくと俺は、大声を張り上げてそう叫んでいた。周りには数人、莚の上で休んでいたり、少ない食べ物を口に運んで食べている人もいたが、その大声でいっせいに視線が俺に向けられた。そして俺もまた、女に向かって怨みに満ちた鋭い視線を投げつけていた。
「なぜだ」
俺は怨めしい視線を逸らすことなく、女を見据えて口を開いた。
「なぜ俺を助けた。なぜ俺を、あのまま死なせてくれなかったんだ」
女は何も言わず、黙って俺を見つめている。
「俺は・・・・俺は・・・・」
俺はたまらず女から目線をそらし、視線を何もない方へと向けた。
「もう死にたかった。消えたかったのに!」
それを見られまいと思って目をそらしたのだが、そうはいかなかった。身体の震えが止まらない。自然と流れ出す哀しみの涙も止めることができない。

なぜだ・・・なぜ俺は、生きているんだ。なぜ、生きなきゃならないんだ。
痛みに耐えるだけのために。

この無常の世の中で、俺の身体はボロボロになり、引き裂かれた心はいつまでも俺に終わらない痛みを与え続けている。消えない痛みに苦しみ続け、その痛みに耐えながら、それでも俺は生きている。

なぜだ。なぜそれでも死なせてくれない?なぜそれでも生きなきゃならない。
救いに縁のない俺たちに明日なんてない。俺にはもう、何も残っていやしないのに・・・・・・。

身体を震わせて泣いている俺を、女は何も言わずじっと見ていた。そして、やがて悲しそうに目を伏せると、俺の身体をゆっくりと莚に横たえてくれた。

「どうかお身体を大切にしてください。そして、あなた自身も」

そう言って女はその場を去っていった。
女といっしょにいた童女はどこにも行かず、正坐をして莚に横になっている俺をじっと見つめている。その目に、哀しみと、温かさの両方の意志を宿して。
「だいじょうぶ、きっとだいじょうぶ。だから」
そう言って、童女は横になっている俺の頭をやさしくなでてくれた。
「だから、あきらめないで」
そう言うと、童女は立ち上がり、その場を去っていったのだった。

第2楽章(完)

adsense_mul

ししんパソコンスクール

adsense3

カテゴリー:Category

ツイッター

京都三条会商店街北 薬膳&カフェ 雅(みやび) サイト制作・運営 一般社団法人シシン

コンテンツ

京都の観光地特集京都のラーメン特集