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後編:権三のお布施

阿弥陀仏の画像

すべての人は皆、今この時も阿弥陀仏様の光の中で、平等に同じいのちを生きている。そこにはもはや差別や区別などない。どこにも、あるはずがない。

私はそう権三に言いたかったが、荒廃した都の中で〈穢れ〉の観念が肥大化し、人々が煩悩によってつくられた、見えない監獄に縛られている現在では、理解してはくれないだろう。

ああ、なんと悲しいことだろうか、これが現実とは。

「それによ」
私が物思いにふけっていると、権三がまた口を開いてこう言った。
「そんな干魚を人に売りたくはねえしな。だから」
と、権三は私の目をちらりと見て、今度は私にこう言ってきた。
「やるよ、持ってけ」
私は彼のその言葉を聞いた時、深い悲しみの心にわずかながら暖かい光が灯されるのを感じた。どんな理由であれこの男、権三は今、このいのちが私の中で生きるための糧を無償で与えてくれたのだ。こんなことは、なかなかあることではない。そのことがただ純粋に、うれしかったのかもしれない。
「よろしいのか?」
「ああ、あんた流にいえばお布施ってやつかな」
「そうか、ではありがたく頂くよ、権三どの」

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「それとよ、そこのガキのことだなんが」
と、権三は私の横に視線を落とした。
私もその視線につられて横を見ると、小さな童女が私を見あげているのが見えた。私の衣の裾をぎゅっとつかんで離さずに、不安そうな色を瞳の奥に輝かせて、じっと私を見つめている。

「・・・・やはり獄に繋ぐのか」
私は童女から権三へと視線を移し、そう問うた。東市ではもし市内で商品の凌奪(物を盗むこと)があった場合、市司の取り締まりによって獄に繋がれるのが決まりとなっている。たとえ子どもでも、法は平等に適用されてしまうのであろうか。
「いや、さっき市司とも話したんだがな」
権三は腕を組んで一息入れると、こう言った。
「今回は、おおめにみようってことになったのさ」
「なんと」
私は驚きを隠せなかった。子どもであれ、盗みを働いたならば法に従って処罰は免れないと思っていたのだから。
「それはなぜだ?」
「いや、実はな」
権三は少しきまりの悪そうな表情をして、こう続けたのだった。
「犯人はもう捕まっていたんだ」

「第2楽章 そんなあなたに感謝を込めて」へと続く

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