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夜空にきらめく星々

「まあ、なんて美しい」

ふと、私、お邑は闇夜の空に燦然と輝く星たちを見てそうつぶやきました。夜空いっぱいに散りばめられたその輝きは、夜の闇に包まれた私の心にわずかながらの光を灯し、つかの間の幻想へと私を誘ってゆきます。苦しみに満ちた現実を離れ、夜空に昇りそこで輝く星たちと一つになる夢へと。夜と闇、それは人間の心がそうであるように、すべてのものに絶えず不安と恐怖をもたらすものです。心に闇が忍び寄る時、いつ明けるともわからぬ暗夜がしだいに私たちを包み込み、その魂を容赦なく迷いと苦しみの世界に引きずり込む。すべての私たちはその運命にあらがうことはできない。その運命から逃れることもできない。なぜならば、生きている限り決して闇を払うことなどできないのですから。いま生きているこの世界そのものが、闇そのものなのですから。闇は常にそこにあり、か弱き私たちが闇に堕ちるのを手ぐすね引いていて今か今かと待っています。人の心とは弱いもの。ともすればすぐに己の欲望・執着・自己執着にとらわれて、あっという間に底なし闇へと堕ちてゆきます。そしてその中で痛みと裏切り、別れと悲しみ、貧窮孤独の炎に焼かれ、終わることなき迷いの世界を輪廻することになるのです。

すべての私たちはみんな、どのようなことをしても、苦しみから逃れることはできない。私たちはいま生きている現世でおかした善悪の業(行い)によって、肉体の死後、様々な迷いの世界へ生まれ変わるのですから。それが私たちを包む闇なのですから。

ああ、京の都は今、闇に包まれている。混沌として先行きの見えない世の中で、人々は心を乱され惑わされ、あやまちを犯し続けて生きている。

ある人は欲望のままに生きものを殺し、ある人は物を盗み、またある人は妻や夫でない者に淫らな行為をするなど、様々な罪を都で重ねて生きている。このような人は死して後にはこの地上の下にある世界、地獄に堕ちて永い間責苦を受け続け、壮絶な苦しみに喘ぐことになると言います。しかし実際はもうすでにこの世に、都に地獄が顕現しているのでしょう。

地獄の世界

人の幸福をうらやみ憎み、物を惜しんだり貪ったりする人も、残念ながら今の時代、珍しくはありません。そのような人は死して後には餓鬼となり、常に飢えと渇きに苦しむことになるといいます。しかし死後に限らず、現実に生きる私たちのような寄り処なき孤独な乞食の存在は、みな餓鬼のようなものです。これもきっと前世(私が私として生まれる前の生)における業の結果、もたらされた現実なのでしょう。

餓鬼

そしてもし、生きている時にとても欲深い心を持ち、慈悲の心無き生活を送れば、その人は死して後には畜生(動物)となって隷従の苦しみを味わうことになるのです。この世にはたくさんの動物たちがいる。もちろんこの都にも。これらの動物は、動物として生まれ変わる前は私の父母であったのかもしれません。かつての父母が畜生となり、隷従の苦しみを味わっている。そう考えると、私はどうしようもなく悲しくなり、涙が止まらなくなるのです。
人間に隷従させられる動物

死して後、運よくまた人間に生まれ変わっても、苦しみは終わりません。変化し続ける世の中で、様々な苦しみに苛まれることになるのですから。この世に生まれ出て、しだいに醜く老いてゆき、ある時には病にたおれ、そしていつか必ず死ぬことになる、というように。
苦しむ人

このようにして、すべての私たちは生まれ変わったり死に変わったりを繰り返し、様々な迷いの世界を輪のように廻り生きている。現世でおかした善悪の業(行い)は終わりなき輪廻をもたらし、輪廻をもたらす根源である様々な煩いや悩みは、私たちの中にこそあるのです。だからこそ、この身に起こる迷いと苦しみからは決してのがれることはできません。残念ながら、それがすべての私たちの運命なのです。

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しかし・・・・。

夜空にきらめく星々

私は夜空に輝く星たちを見てしみじみと思います。

夜空に輝く星たちは違う。そんな私たちの運命とは正反対に、今日も星たちはいつものように、闇夜の天蓋を照らして、希望の光を灯し続けている。苦の鎖に繋がれることなき名もない夜空の星たちは、燦然と光を放って地上の闇を見つめている。そこにうごめく私たちを、手の届かない遥か彼方から光を放ち、じっと動かず見つめている。

ああ、私もあそこまで昇ってゆきたい。あの空に昇ってあまたの星と一体となり、光の中に包まれて生きてゆきたい。こんな無常の苦しみに満ちた現実世界を今すぐ捨てて、光の中に生まれ変わりたい。

そんな夢をこれからもずっと見ていたい。
たとえそれが、叶うことのない儚い夢に過ぎないものだとしても。

あれから何年になるのでしょう。私は空を見上げるのをやめて、暗闇の夜に包まれたあたり一帯をあてもなく見回します。齢十の頃、頼りにしていた父と母に死なれ、この世に見放されて孤独の乞食となってから。家を捨ててあてもなく彷徨ううちに、京の都の中央を貫く朱雀通り、その南の端にある巨大な羅城門で暮らす身の上となってから、どれくらいの年月が流れたのでしょう。淡く儚い夢を見ながら、私は今日も闇に包まれた巨大な羅城門の階段にすわり、無常の風に晒されながら、星を見上げて生きている。

闇夜の羅城門

せっかく淡い夢を見ても、無常の風が容赦なくそれをさらっていく。夢は無常に吹き流されて、闇といっしょに何処か何処かへと消えてゆく。まるで恒河沙(大量の砂)が風に吹かれて塵となり、どこか遠くへ流されていくように。そしてあとに残るのは、淡く苦い夢の跡だけ。そこにただ一人とり残されたこの私は、その時にすべての現実を思い知らされるのです。もはやここには何も残っていないことを。すべてはもう、失われてしまったことを。痛みに慣れた身体を抱え、今日も私はその現実に身をすくめ、空を見上げて輝く星を見つめている。

叶うことなき儚い夢を、それでも想い続けながら。

「第2楽章 闇夜の中の子守唄」につづく

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