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後編:笑顔の出会い

「おねえちゃんが?」
それは、東市で出会った童女が口にした言葉だった。市に来たこの子が鄽(いちくら=お店)から干魚を盗んで捕まりそうになっていたのを、私が助けたのだ。また、この子はその汚い身なりと、今にも死にそうな人相が出ているという理由で不浄な者とみなされ、市の人々から〈死穢童子〉と呼ばれている子だった。

もちろんそんなものは、〈穢れ〉なぞというものはもとから存在するものではない。なぜなら、それは所詮人々の恐怖心―神々への恐れや死に対する嫌悪の感情―が生み出したものにすぎないのだから。

私は童女の目の高さまでしゃがみ込んで、彼女の話に耳を傾けていた。
「うん、おねえちゃん、病気なの。すごくつらそうなの。だからね、おいしいものを食べさせてあげようと思って。だから市に来たの。でも私、何も持ってないから、でも、おねえちゃんが、だから・・・・・」

なるほど、するとあの干魚は、病気のおねえちゃんに食べさせようと思って・・・・・。

いや・・・・・。

私は、このボロボロな身なりをした童女を見て思った。

おそらく、それだけではあるまい。

黒い垢に覆われた顔と腕。肩まで垂らされたボサボサの髪、ボロ切れのような着物でかろうじて覆っている、小さくか弱いその身体。そして、今にも死んでしまいそうなその人相。人間と呼ぶにはあまりにも悲惨すぎるその姿から、この子の抱えるいのちの叫びが痛いほどこの胸に伝わってくる。

餓鬼
この子はやはり、これまでも生きるためにやむにやまれず盗みを繰り返していたのではないだろうか。世に捨てられた人々が、居場所をなくした人々が、何も食べずに生きてゆけるはずがない。それが子どもなら、なおさらだ。

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「お坊様」
私がそう思っていると、幼い童女はその小さい両手で私の片方の手をぎゅっと握ってきた。
「おねがい」
その手は驚くほど冷たかったが、そんなことは気にもならなかった。童女の悲しみと痛みに満ちた黒い瞳が、私の心をとらえて離さなかったからだ。
「おねえちゃんを、おねえちゃんを助けて」

彼女の悲痛な叫びが、私の胸に届いてくる。この子は今、声なき声で叫んでいる。幼く小さい手の中に、すべての願いを握りしめ、私に助けを求めている。その魂の叫びが、確かに私の胸に響いてきていた。

助けて・・・・お願い、おねえちゃんを・・・・助けて。

「このままじゃ、おねえちゃんが、おねえちゃんが」
私は何も言わず、もう片方の手で童女の冷え切った手をやさしく握ってあげた。そして涙ぐむ童女に向かって笑顔で応え、彼女の頭をやさしく撫でてあげる。その手から伝わってくる悲痛の叫びを、しっかりと受け止めて。
「わかった、わかったから。もう泣かないで」
私は笑顔を崩すことなく、童女にやさしくこう言った。
「よし、君のおねえちゃんを助けに行こう。今すぐに」

その言葉を聞くやいなや、彼女の瞳の色が変わった。そこには驚きが入り混じっていたが、確かな輝きもみてとれる。まるで暗闇しかなかった世界に、希望の光が差し込んだような、そんな輝きが彼女の瞳に宿っていた。

「ほんと?・・・・ほんとに!?」
「ああ、ほんとだとも」
私は童女の両肩にやさしく触れてこう言った。
「だから案内しておくれ。行こう、君のおねえちゃんのところに」
「うん・・・・・うん!」

今まで暗かった彼女の表情がみるみる明るくなっていく。ボサボサの髪に垢だらけの彼女ではあるが、そこには確かな笑顔があった。心から嬉しそうなその笑顔に、私もまた笑顔で返す。この笑顔と笑顔の出会いが、新たなる光を運んでくるのだ。

やさしく触れ合う手と手
「私の名前は空也、空也だ。君に名前はあるかい?」
「私は、レン。おかあさんがね、つけてくれたの」
「そうか、じゃあレン、さっそくつれて行っておくれ。おねえちゃんは、私が必ず助ける」
「うん!」

というわけで、私は今、レンという童女といっしょにいる。晴れ渡った空の下、京の都の中央道路 朱雀通の南端にある都の表玄関 羅城門。その前に佇み、その威容に圧倒されながら。
晴天の羅城門
「空也さま、はやく」
「そうだな、よし、案内しておくれ」
私はその童女、レンに連れられて、羅城門へと足を運んでゆくのだった。病に苦しむ彼女のおねえさんを助けるために。

「第2楽章 羅城門の女」へとつづく。

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