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後編:愛する人へ

阿弥陀仏の画像

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

私は西日に向かってお念仏を称えながら、レンのことを想っていました。私の大切な、私の大好きなレンのことを。

「レン、あなたはどうして、いつも南無阿弥陀仏と称えるの?」

私はまだ病が癒えぬ頃、鴻臚館でレンに介抱されている時にこう聞いたことがありました。
「それは死んだ人に向けて言う言葉のはずでしょう?」
するとレンは、穏やかな笑顔で両手を合わせ、私と、自分に向かって念仏を称え始めたのです。
合掌

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

「おねえちゃん、だいじょうぶだよ。この言葉はね、阿弥陀仏様が私とおねえちゃんを守ってくれる言葉なんだって」
「阿弥陀仏様が?」

「そうだよ。阿弥陀仏様はね、今苦しんでいるすべての私たちを救おう、って誓われた、すごく偉いお方なの。その阿弥陀仏様が、苦しんでいる私たちを救う手段として勧められたのが、南無阿弥陀仏、って口に称えることなんだって」

「誰がそのようなことを」
「空也さまだよ」
「あのお方が・・・・」
「うん」
私がまだ信じられないという顔をしていると、レンが穏やかに口を開きました。
「私は、信じるよ。空也様の言ったこと」

私はあの時、感じていたから。
羅城門にいたあの時、空也様にやさしく抱かれてその中で眠っていた時、
確かに感じていたから。

癒しの阿弥陀仏様

阿弥陀仏さまはそこにいる。
阿弥陀仏さまはそこでやさしく見守ってくれているって。

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「だからね」
レンは私の頭をやさしくなでて言います。
「わたし決めたの。おねえちゃんを助けるって、守ってあげるって決めたの」

阿弥陀仏さまは、
きっとおねえちゃんを守ってくれるから。
きっとやさしく見守ってくれているから。

「だから、私はお念仏を称えて、おねえちゃんを守ってあげるの」

おねえちゃんは、私にとって、とても大切な人だから。おかあさんが恋しくて一人で泣いていた時、おかあさんの夢を見てどうしようもなく寂しくなって震えていた時、いつも抱きしめて守ってくれた人だから。だから今度は、私がおねえちゃんを守ってあげるの。

「レン・・・・」

―だから、だいじょうぶだよ、おねえちゃん―

レンはそう言いながら、私の頭をやさしく撫でてくれました。

・・・・ずっと私が守ってあげていたと思っていた。
ずっと私が守ってあげると思っていた。

私は、レンのその言葉にたまらない気持ちになりました。

でも、今はレンが私を守ろうとしてくれている。
いえ、もうすでに、私はレンに守られているのね。
レンは今、私を大きな慈悲の光で包んでくれているのだから。

私は胸がきゅんとなりました。
苦しいのではありません。うれしいのです。
うれしくて、うれしくて、たまらない。

「ありがとう・・・ありがとうレン」
私の声は震え、涙声になっていました。何か熱いものが胸の奥から込こみあげてくるのを私は感じていたのです。レンが私を守ってくれている。私の身体を、私の心をやさしく包んでくれている。だんだんと目頭が熱くなりはじめ、胸はうれしさでますますきゅんとなっていきました。

もう、たまらなかった。もうたえられなかった。

―ああ、レン―

私はたまらなくなって、両手を広げレンをゆっくりと抱きしめました。愛情いっぱいに、やさしく、ゆっくりと、そしてしっかりと。
「これからも、ずっといっしょだよ」
「うん。大好きよ、レン」
「私も、大好き」

レンの温かいやさしさに包まれていた時、私は確かに感じていました。

阿弥陀仏様はそこにいる。確かに今、そこにいて、私たちを見守ってくれている。そのことを、心で、身体で確かに感じていたのです。私にとって、それは今ここにいてくれるレンこそが、そうでした。かわいいかわいいレンこそが、阿弥陀仏様そのものであることを、私は感じ取っていたのです。

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」

合掌
そして気がつくと、私は自然と口に阿弥陀念仏を称えていたのでした。温かさに包まれて、穏やかさに包まれて、私は自分自身に、レンに、そしてこの世界のすべてに向かって、阿弥陀念仏を称えたのでした。

夕日

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」
ありがとう、阿弥陀仏様。ありがとう、レン。

「第2楽章 茜の絆―あなたを信じ、この身をすべて委ねます―」へとつづく。

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