第3楽章 阿弥陀仏様の子守唄―前編―
投稿日:2022年03月03日投稿者:じゅうべい(Jubei)
カテゴリー:第5遊行 羅城門・阿弥陀物語―温かく、やさしく、穏やかに― , 平安仏教聖伝―阿弥陀聖(ひじり)空也編―
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前編:ありがとう。どういたしまして。
「さあ、これを」
「いかがですか?」
私が笑顔でそう聞いてみる。
「はい。おいしゅうございます。私のためにこんな上等なご飯と干魚と、それからお水まで・・・・」
女はすすり泣きながら私の目を見た。目にわずかに涙がたまっている。その瞳が妙に美しくきれいに見えた。
「ありがとうございます」
弱弱しいが、その目は少しだけ輝きを取り戻しているように見える。
「よかった。さあ、ゆっくり食べてください」
「はい」
女は、もともと食べたいと思っていたのだろう。病人にも似ず大変よく食べてくれる人だ。このぶんだと回復も早いだろう。
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女が食事を済ませると、今度はレンが水の張った丸い木桶にひたしてある白い巾を絞って水気を切り、横になって寝ている姉の顔―黒く汚れている―を拭いてあげている。
今の彼女はすごく気持ちよさそうだ。
「おねえちゃん、気持ちよさそう」
「そうだね、よかった」
これでとりあえずは大丈夫だろう。あとは安静にして、少しずつ食べ物を食べれば、じきに回復するはずだ。
「空也さま」
「ん?」
気がつくと、レンが私の方を見ていた。その表情に、うれしさと穏やかさをたたえて。
「ありがとう」
と、レンが私にそっと寄り添ってくる。
「ありがとう、空也さま」
「どういたしまして」
「後編:阿弥陀仏様の子守唄」へとつづく。
この記事を書いた人
じゅうべい(Jubei)
みなさんこんにちは。今日も元気がとまらない地球人、じゅうべいです。好きなことは遊ぶこと(漫画に映画、音楽(Jロック等)にカフェ巡り)です。
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