前編:ありがとう。どういたしまして。

晴天の羅城門
「さあ、これを」

羅城門に戻ってきた私、空也はゆっくりと女の身を起こし、干魚を手で小さくむしって、箸で飯箱に入った白飯を口に運んでやった。女はゆっくりと口をあけてご飯を口に入れ、次いで小さくむしった干魚を食べ始める。

「いかがですか?」
私が笑顔でそう聞いてみる。
「はい。おいしゅうございます。私のためにこんな上等なご飯と干魚と、それからお水まで・・・・」
女はすすり泣きながら私の目を見た。目にわずかに涙がたまっている。その瞳が妙に美しくきれいに見えた。
「ありがとうございます」
弱弱しいが、その目は少しだけ輝きを取り戻しているように見える。
「よかった。さあ、ゆっくり食べてください」
「はい」

私は時折女の背中をやさしくさすりながら、女の求めにしたがってご飯と干魚を交互に口に運んでやった。そして時折レンが井戸から汲んできてくれたお水を飲ませてやる。

女は、もともと食べたいと思っていたのだろう。病人にも似ず大変よく食べてくれる人だ。このぶんだと回復も早いだろう。

女が食事を済ませると、今度はレンが水の張った丸い木桶にひたしてある白い巾を絞って水気を切り、横になって寝ている姉の顔―黒く汚れている―を拭いてあげている。

レンがやさしく、ゆっくりと顔を拭いていくと、汚れていた顔が次第にきれいになっていき、本来の白く美しい肌があらわになっていった。きれいになった女の顔をあらためて見てみると、やはりどことなく気品を感じさせる美しさがある。年は十五・六といったところであろうか。清涼な水の含まれた白巾で顔を拭われて、女の表情もだんだんと穏やかになっていた。

今の彼女はすごく気持ちよさそうだ。

そうして姉の顔をふいてあげたレンは、もう一度巾を水にひたして絞って水気を切ると、それを姉の額にあてがい、安堵の表情を浮かべていた。大きな白い犬の小太郎は、そんなレンの姿を黒くきらめいた瞳でじっと見つめている。

「おねえちゃん、気持ちよさそう」
「そうだね、よかった」
これでとりあえずは大丈夫だろう。あとは安静にして、少しずつ食べ物を食べれば、じきに回復するはずだ。
「空也さま」
「ん?」
気がつくと、レンが私の方を見ていた。その表情に、うれしさと穏やかさをたたえて。
「ありがとう」
と、レンが私にそっと寄り添ってくる。
「ありがとう、空也さま」

かすかにすすり泣いて、少し震えているレンの身体。その身体を、私は穏やかな表情で、やさしく抱きしめてやる。そして片方の手で、レンの頭をゆっくりとやさしくなでてあげるのだった。

「どういたしまして」

癒しの阿弥陀仏様

「後編:阿弥陀仏様の子守唄」へとつづく。

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