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前編:THE PHANTOM PAIN

お父さん、痛いよ・・・・痛いよ・・・・お父さん、助けて。

沙羅、待ってろ。今、今助けてやるから。

お父さん、痛いよ・・・・血が・・・・止まらないよ。

くそ・・・・くそ!誰か、誰かいないか!誰かぁ!

お父さん・・・・・お父・・・・さん・・・・・・。

ダメだ、沙羅、寝ちゃだめだ!必ず、必ずお父さんが。沙羅、沙羅ァ!

「沙羅!」
気がつくと俺は暗闇の中で起き上がり、右腕を伸ばして空を掴んでいた。息がものすごく荒くなっている。体中に冷や汗をかき、目は絶望に見開かれていた。

また・・・・・あの夢。

呼吸が荒い。体中に冷や汗をかき、肩で息をして闇を見つめる。

暗闇

胸が痛い。どうしようもなく苦しい。荒くなった自分の呼吸とともに動悸もどんどん激しさを増している。何とかしようと胸を押さえて止めてみようと試みるが、自分ではどうにもできない。心に刻まれた悲しみと、それがもたらす痛みとが同時に襲ってきて、心の臓から身体中に痛みが広がってゆく。もう何度この痛みを経験したことだろう。何度この痛みに苦しめば、楽になるのだろう。いや、おそらく楽になどならない。この痛みは永遠に、呪いのように俺にまとわりついて、一生、死ぬまで俺を苦しめるのだ。

「う・・・・うう・・・・う」
どれだけ耐えても、何度耐えても、この痛みだけは慣れてはくれない。俺を殺そうと、何度でも何度でもこいつはこうしてやって来るのだ。
「沙羅・・・・摩耶・・・・・」
激しい痛みに耐えながら、俺は暗闇の中でその二人の名を呼んでいた。もう二度と還ってくることのない、その二人の名前を。
「すまない・・・・すまない」
俺は懺悔していた。ただひたすら懺悔していた。俺のせいで、すべては俺のせいであの二人は・・・・・二人は・・・・・・。

俺は自分の腕を見た。暗闇の中でもわかる。腕の震えが止まらない。恐怖で、悲しみで、痛みで。片方の腕で震える腕を押さえて止めようとするが、それでも止まる気配はない。

くそ・・・・くそ・・・・とまれ・・・・とまってくれ。

そう心の中で念じ、叫んでいた時だった。

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ふと、俺の背中に触れる手の感触に気がついた。そしてその手は、ゆっくり、やさしく俺の背中をさすり始める。

阿弥陀仏

「さあ、大丈夫。落ち着いて、落ち着いて、大丈夫」
それはあの女の声だった。小さい童女といっしょに、怪我をした俺を世話してくれた、あの美しい女。暗くて姿は見えないが、あのやさしく、温かみのある声は、あの女に違いない。
「落ち着いて、息を吸って」
女は俺の背中をゆっくりと下から上にさする。それと同時に俺は、女の言うとおりに息を吸った。
「吐いて」
今度はゆっくりと手を上から下にさする。俺はまた言われたとおりに息を吐いていく。
「吸って・・・・・・吐いて」
それが何回か繰り返される。すると、だんだん荒かった呼吸も落ち着いてきて、俺の身体の震えもおさまってきた。

「どうですか?」女が聞いてきた。
「ああ、だいぶおさまったようだ。ありがとう」俺は暗闇の中で、そう答えた。
「おいでなさいな、少し外の空気に触れましょう」
この時の俺は、まだ完全に怪我が治っていたわけではなかった。しかしここ(実は、ここがどういう場所かまだ分からないのだが。ほかにも病人や貧困者が何人かいたから、その収容施設だろうか)に来て今日で数日が経ち、その間童女とこの女が世話してくれたおかげで、何とか自分で歩けるようになっていた。

俺は女に支えられ、夜の闇に包まれた外へ出た。外に出ると、夜風が少しだけ俺の身体にやさしく息を吹きかける。その風は妙に心地よかった。

後編へつづく。

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