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「空也様」
レンといっしょに女を介抱し終わってからしばらくすると、羅城門に一人の僧がやってきた。背丈は五尺五寸(一六五センチ)くらいで逞しい筋骨を身体に具えおり、物を運ぶための荷車を引いている。
「おお、待っていたぞ蓮性どの。その荷車は?」
「ご親切な市人が貸してくれたのです。これにあの女性を載せて行きましょう」
「そうか、それはなんと有り難い。」
「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」
私は感激のあまり、また口に阿弥陀仏の名号を称えていた。
ああ、なんと有り難いことだろうか。
「空也さま」
レンが私のところにやってきて、蓮性を見あげている。
「この人、だあれ?」
「レン、この人はね、蓮性さんといって、私の善き友人なのだよ」
私はいつものように、レンの目の高さまでしゃがみこんで善友である彼を紹介した。
「はじめまして、レン。私は蓮性だ、よろしく」
蓮性もまた、私と同じように幼いレンと同じ目の高さまでしゃがみ込んでそう言い、その頭をやさしく撫でてあげている。
蓮性、この男は私が都に還ってくる少し前、都の戌亥(西北)の方角にある愛宕山月輪寺(つきのわでら)で修行していた時に弟子となった者の一人だ。実は私はその時すでに多くの弟子を抱え、共に愛宕山の月輪寺を拠り所に修行をしていた。
しかし、そこでの暮らしは私にとって決して平穏なものではなかったのだ。
その後、弟子たちは散り散りになってしまったようだが、蓮性は愛宕山から忽然と姿を消した私をずっと探していたらしい。そしてその思いが通じたのか、私が羅城門に臥す病女を助けるために東市に来た時、都に出てきていた蓮性は私と再会を果たすことができたというわけだ。
蓮性は私との再会を、それはそれは喜んでくれた。
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「さあ、これでよいでしょう」
蓮性は、まだ完全には回復しきっていない羅城門に臥した女を、そっとやさしく、しかし力づよく抱き上げた。そして両腕でその身体を持ちあげて、荷車の上にそっと横たえてくれた。
「さあレン、ここに乗るといい」
蓮性が荷車の空いている所に手を置いて、レンに声をかける。
「うん。」
レンは素直にそれに応じて荷車に乗りこむと、女のすぐ横に座り込んだ。
「あ、小太郎・・・・・・」
蓮性は大きな白い犬の小太郎に目を移し、そしてまたレンに視線を戻すと、軽くうなづいた。その表情に笑顔をたたえて。
レンもそれを察して笑顔になると、車から呼び寄せた。
「小太郎、おいで!」
こうして小太郎もまた、その荷車にのせてゆくことになったのだった。
「さあ行きましょう、空也様」
「ああ、頼むぞ、蓮性」
どこまでも続くその道の先に、安心安穏の光があらんことを祈りながら。
どこまででも遠くまで、その道を行く。
「第2楽章 照らし出せ、旅人の行くしるべを」へとつづく。
この記事を書いた人
じゅうべい(Jubei)
みなさんこんにちは。今日も元気がとまらない地球人、じゅうべいです。好きなことは遊ぶこと(漫画に映画、音楽(Jロック等)にカフェ巡り)です。
よろしくお願いします。