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後編:青い風の光

東市は今やあらゆる階層の上下の区別を超えて、
実に多くの皆の衆の活動のおかげで成り立っているのだ」

と、空也上人は「空」と「東市」と書かれた地面の上部に「市司」、右側に「市人(売る者)」、下部に「買う者」、左側に「作る者」「運ぶ者」と書いてゆき、それらの文字を円で囲い、さらにそれらを線でつなげてゆく。

「空」と「東市」と書かれた地面の上部に「市司」、右側に「市人(売る者)」、下部に「買う者」、左側に「作る者」「運ぶ者」と書いてゆき、それらの文字を円で囲い、さらにそれらを線でつなげた図

「なるほど・・・・それで?」

「今もここ、東市ではあらゆるモノ、あらゆる人が、お互いに多様な関係性の中、階層の上下の区別を超えてあるがままに命を支え合っている。そこにはもはや何の差別も区別もない。皆平等にこの世の救済に励む菩薩として、今を生きている存在なのだよ。

菩薩

この東市も、実に多様な関係性の中で成り立つ以上、その関係性が消えれば、いつかは消えてしまうものであろう。しかしたとえ東市がなくなっても、そなたたち菩薩がいる限り、お互いがお互いを支え合う命の世界は決してなくなることはないのだ」

「とすると、俺も菩薩ってことかい?」
「そうだ、柴樹(しばき)どの。そなたも都の貴族に仕える従者であろう。ならばそなたの働きが、貴族の方々のいのちと生活を支えていることになると、私は思う。そなたはそなたの立ち位置で、そなたの持ち場で懸命に生きてゆけばよい。区別も差別もすべてを捨てて、ただひたすらに、誰かのために尽くしてゆくのだ」

と、空也上人は木の枝で地面に「阿弥陀仏様」と書き、その文字を丸で囲む。

阿弥陀仏の文字-min

差別も区別も智慧も愚痴も、すべてを捨てて、菩薩としてただひたすらに、誰かのために尽くすこと。誰かのために行動してゆくこと。阿弥陀仏様はそう私たちに教えて下さっているのだよ。阿弥陀仏様のお姿が見えないのも・・・・」

空也上人は、今度は地面に書かれた「空」の文字を指す。

丸で囲われた「空」(くう)の文字。

「この空の教えを常に私たちに示しているためなのだ」

「この世に存在するあらゆるもの、物質的なものに限らず、特定の考えも何もかも、それらはもともと固定的な実体など持ってはいない。
余計な雑念などすべて捨てて、菩薩としてただひたすらに、誰かのために尽くすのだと。誰かのために行動してゆくのだと。この教えそのものが、阿弥陀仏様と言っていい」

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「見えないけれど、〈教え〉となってそこにいる・・・・」
ずっと空也上人の話を聞いていた俺は、そうつぶやいていた。
「そういうことかい、空也上人?」
「そう、その通り」
空也上人が左手で俺の方を指し示した。
「阿弥陀仏様は、〈空〉の教えとなって、今ここにずっといらっしゃる。ずっと私たちを見守っていてくださっているのだ」

阿弥陀仏の画像

すると空也上人様は、心静かにその念仏を称え始めた。右手に持っている撞木で、首から下げている金鼓を打ちながら。阿弥陀仏様にすべて身を委ねて生きる、阿弥陀浄土の念仏を。

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

コーーーーン、コーーーン。

「阿弥陀仏様は今この時も、〈空〉の教えでわれらを導き、この世で生きる意味や価値を、与えて下さっておられる。そのような弥陀の教えを心から信じて、徹底的に、すべてを捨てて、その身を委ねて生きてゆく。だから私は口に念仏を称え続けるのだ。そしてその時、南無阿弥陀仏の念仏となり阿弥陀仏様はそのお姿を現して下さる」

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

コーーーーン、コーーーン。

「すべてのものは、もともとは固定的実体を持たないものである。しかしすべての皆の衆のおかげですべてのものは成り立っている。この東市の賑わいがそうであるように」

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

コーーーーン、コーーーン。

「生きる価値のない人間など、誰一人としていないのだ。みな平等に、この世の救済に相励(あいはげ)む、大切な菩薩なのだから」

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

コーーーーン、コーーーン。

「念仏を称え差別も区別も智慧も愚痴も、すべてを捨てて、ただひたすらに、誰かのために尽くすのだ。誰かのために行動してゆくのだ。それぞれの立ち位置で、それぞれの場所で」

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

コーーーーン、コーーーン。

「一度でも、南無阿弥陀仏と称えれば、われらは地獄に堕ちることもなく、皆平等に極楽浄土に生まれ変わることができる」

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

コーーーーン、コーーーン。

空也上人の念仏の声に合わせ、一人が念仏を称え始めた。すると、一人、また一人と念仏を称え始める。

そして・・・・・・。

「南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。南無阿弥陀仏、阿弥陀仏」。

気がつくと、周りで「南無阿弥陀仏」の大合唱が響いていた。今、この場にいる誰もが、念仏を共に称えている。今この瞬間、誰もが阿弥陀仏に身を委ねて生きていた。阿弥陀念仏の光に身を委ねて生きていた。そしてその光は、青い風に乗ってどこまでもゆき、この市全体を、いや、もしかしたら全世間をも包み込んでいるのかもしれない。念仏の光に包まれていた俺は、確かにそう感じていた。

第11遊行(完)

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