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前編:それでもまた、やり直せる。

夜空にきらめく星々

「あの子は・・・・あの子は俺の腕の中で・・・・・」
満天の星たちが煌めく空の下で、俺は女にすべてを告白した。

●打ち続く飢饉と洪水で村を捨て、都に出てきたこと。
●都で僕隷として貴族に仕えたが、病を理由に〈死の穢れ〉恐れられ、見捨てられたこと。
●それでも都で生きのびるために、盗賊にならざるをえなかったこと。
●妻と子に恵まれた後も、盗賊をやめられなかったこと。
●そしてそのために、妻と子を永遠に喪ってしまったこと。

そのすべてを。

「今でも、あの感触が、あの子が腕の中で呻いていたあの感触が、忘れられない」
俺は自分の両手を見た。
「俺の手は、血まみれだ。盗人で、罪人で、人殺しだ」
俺は絶望して首を振る。もうすべて手遅れなんだ。もう俺は、引き返すことはできない。
「俺にはもう何もない。誰も守ることもできない。人から奪うことしかできない。そんな俺が、俺は許せない。だから・・・・だからこの手で、俺は」

長椅子に腰掛けながら、俺は暗闇の中でうなだれる。

結局俺は、奪うこと以外何もできない男なのだ。人から物を奪うだけではなく、その因縁でいのちよりも大事な妻と子をも、自らの手で奪ってしまった。絶対守ると誓っても、結局俺は何一つ守れない男なのだ。

そんな俺など・・・・・。

と、背中に手の感触を感じる。その手は、俺の背中をゆっくり、ゆっくりと上下にさすってくれていた。
「そう、そうだったのですね」
女はすべてを悟っていたようにみえた。最初に発見された時、なぜ俺が路上で倒れていたのかを。俺は誰かに襲われたのではなく、何かに襲われたのでもなかったことを。
そして次の瞬間、女は俺をその身体でやさしく抱いて包み込んでくれていたのだ。女の温かい体温が俺の冷たい身体に伝わってくる。すぐ耳元で、かすかに女のすすり泣く声が聞こえた。

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・・・・・そうか・・・・・・。

この女も同じなのだ。この女もまた、一番に慕っていた父と母を突然失い、すべてを失って都を彷徨う孤児となってしまった過去があると言っていた。その消えない心の傷が今、俺の心の傷と共鳴しているのか。

沙羅と摩耶、大切な人をなくしてボロボロに傷つき、生き場所を失くしてしまった俺。父と母、大切な人を突然失って、さらに生き場所まで失くしてしまったこの女。

俺たちは今、痛みを・・・・・分かち合っているのだろうか。

「大丈夫、あなたはまた、やり直せる」
女は、俺の身体を抱きながら、俺の背中をさすり続けている。
その動作は、まるで何かを温かく洗い流してくれるように感じた。そう、心も体もボロボロになり、傷だらけになった身体をすべて洗い流してくれるような、そんな感じだった。

「あなたは誰よりも知っている。喪った悲しみを、見捨てられた痛みを。それが・・・・それがどれだけ痛いものか、どれだけ悲しいものかを。誰よりも深く知っている」

いいえ、それだけじゃない。

女が俺を抱きしめる力が、少しだけ強くなる。それは強くも、とてもやさしく温かい力を感じさせるものだった。

「それだけではなくあなたは、悪を為した自分の愚かさも、ほかの誰よりも知っている。他の誰よりも自覚している。だから・・・・・」

―必ずまた、やり直せる―

〈後編に続く〉

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