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前編:闇の盗人

この人になら、話せるかもしれない。
この人に話したら、何かが変わるかもしれない。

夜空にきらめく星々

そう思ったからかもしれない。満天の星たちが煌めく夜空の下で、俺はゆっくりと、俺を助けてくれたその女に俺のことを話し始めた。かつての俺のこと。かつての愛する家族のことを。

あれから、どれだけの月日が流れただろう。
もうずいぶんと、時が経ったように感じる。
だが、実際はあれからまだ数年しか経っていないのだ。

俺はもともと、生まれも育ちも京の都ではない。俺はもともと、ある地方の村からこの都に出てきた男だった。俺がかつて住んでいた村は、打ち続く飢饉の影響ですっかりと荒れ果ててしまい、さらにそこへ洪水の被害まで加わって村は壊滅。もう二度と人が住める場所ではなくなってしまったのだ。

俺の村は、その災害で死んでしまった。
俺の親しい人も愛する人もみんな。そしてこの俺自身も、その時一度、死んだ。

でも、だから俺は今ここにいる。この都で生きている。生まれ育った村はもうどこにもない。俺にはもう、どこにも帰るところはない。だから、ここで生きていくしかないんだ。都は村に比べて課役負担も軽いと聞いていたし、様々な物資も集まる場所とも村にいた時に聞いていた。だから俺は、居場所をなくした俺は、気がついたら都に足を運んでいたんだ。

都に出れば何かが変わるかもしれない。都に出れば、もうあんな悲惨な目には遭わないかもしれない。漠然とそう思ってはいたけれど、その辺で野垂れ死にするよりははるかにましだろうと思っていたものさ。

だが、現実は甘くはなかった。現実は決して俺に微笑んではくれなかった。

そこで俺を待っていたのは、地獄そのものの日々だったんだ。

地獄のイメージ

親も親類も知人のつてもなくたった一人で都に出てきた俺は、最初こそ富のある貴族の家に身を寄せて、僕隷という私的な従者となってその家に仕えていた。だが、ひとたび俺が病気になってしまうやその時点で労働力の価値がないとみなされて、いとも簡単に仕えていた家を追い出されてしまったんだ。

―お願いです。どうか今しばらくここに。きっとお役に立って・・・・・―

今でもはっきりと思い出すよ。

―お前が死んで、この家に穢れが発生してしまっては困るのでな―

―そんな・・・・どうかお願します。どうか・・・・・―

・・・・・俺は忘れない・・・・・。

―たわごとを―

あの雨の日のことを、俺は絶対に忘れない。

―お前の代わりなど、いくらでもおるわ―

そんなことを言われて一方的に家を追い出され、俺は何もない路上に容赦なく投げ出されてしまったんだ。

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・・・・俺は・・・・・・。

土砂降りの雨の中で、俺はその時、さとってしまった。

俺は・・・・人間なんかじゃ・・・・ない?

・・・・・俺は・・・・・。

暗闇の中の土砂降りの雨

俺は・・・・・!

俺はしょせん、使い捨ての道具にすぎなかった。どこまでいってもそんな存在でしかなかった。結局俺は、貴族にとって都合のいい使い捨ての道具で、使えなくなったらすぐにでも捨てられる、僕隷という名の都合のいい道具にすぎなかったんだ。

俺だけじゃない。京の都にはそんな奴らが大勢いたんだ。
〈病などで死んで家に穢れが発生しては困る〉という理由で、
一方的に路上に投げ出される、そんな病者や貧者が大勢いた。

俺もまたそいつらと同じように、問答無用で家から路上に追い出され、生きてゆくためのつながりをなくしてしまった一人さ。だから俺は、都でひどく貧しい生活を送らざるをえなくなったんだ。都で実際に俺を待っていたのは、決して安息などではなかった。そこにあるのはどこまでも続く終わらない飢えと孤独。光のない闇と絶望。その中を俺は生きていた。

暗闇

そう、俺は生きていた。それでも生き抜かなければならなかった。だから俺は、都で盗みをはたらくようになり、貴族の家に押し入っては食べ物と金品を奪う日々が続いたんだ。

悪いとは分かっていた。自分でもそれはよく分かっていた。
でも仕方がなかったんだ。生きるために、そうするしかなかった。

そして、そんなことが続いたある日のこと。

俺の悪行についに報いが下る時が来た。そう、あの夜、ある貴族の家に忍び込んだときのこと。俺は罠にはまってしまい、待ち伏せしていた腕に覚えのある者たちによって、太刀で斬られ、弓で射られて大けがを負ってしまったんだ。それでも俺は命からがら逃げおおせた。逃げおおせたが、なにせ深手を負っていた俺だ。そのうち暗闇の路上に倒れて、とうとう力尽きてしまった。

今でもはっきりと思い出すよ。俺はその時、もうここで死ぬんだと思った。俺のような人間は、ここで虚しく野垂れ死ぬんだと。ついにその時が来たんだと。そう思ったんだ。

でもそれは違った。俺は生き延びることができたんだ。
あの人が、あの人が俺を助けてくれたから。

・・・・気がつくと、俺はある家にいた。そこは小さな柴の庵だった。

俺は治療を施されて、筵に横たえらていた。そこには一人の女が住んでいた。路上で倒れている俺を見つけて、どうにかしてここまで運んできたのだと、そう言っていた。白い薄汚れた衣を着た、年は十六くらいの若い娘だった。俺が目覚めたのに気がついて、女がとても嬉しそうな表情を見せてくれたのを、今でもよく覚えている。

あの時の笑顔は、忘れない。忘れられない。
―摩耶、それが彼女との出会いだったから―

「後編に続く」

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