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後編:悪夢の始まり

間に合ってくれ、どうか、どうか間に合ってくれ・・・・・。

夜道を全力で走り抜け、家の前にたどり着いた時だった。
「もう逃げられんぞ!汚らわしい賊めが」
「なにをなさるのです!私たちは」
「うるさい!残らず斬って捨てろ!」
「あ!!」
と、太刀で人を斬る音がして、悲鳴とともに人が倒れる物音がした。
「かあさま!・・・・あ!」
子どもが叫んだ声が聞こえたかと思った刹那、幼い悲鳴とともに太刀で斬られる音が無惨に響く。
「よし、あとは奴だけだ。なんとしても捜し出せ!」
暗くてよく見えなかったが、数人の者たちが家から出てくる気配があった。だから俺は急いで近くの茂みに飛び込んで身を隠した。奴らはしばらくそこかしこを徘徊していたが、やがて諦めたのか、どこかへ行ってしまった。俺は周囲をみて誰もいないことを確かめると、急いで茂みから飛び出し、家の中に入った。

沙羅、摩耶!!

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血がそこら中に飛び散っている。壁、床、戸、あらゆるところに。家の中は荒らされ、暗い家屋に、無惨に斬り殺されて動かなくなった二人が転がっていた。母親にすがりつくように、うつぶせに倒れている子どもがいる。その背中には、太刀の先端で刺した傷が見えた。
「摩耶!沙羅!」
俺は二人を抱き起こし、ゆすってみたが、摩耶はすでにこと切れていた。沙羅はかろうじてまだ息があったが、もうほとんど虫の息と言ってよかった。
「沙羅・・・・沙羅。しっかりするんだ」
俺は必死に沙羅を抱き起こした。
「お父・・・・さん」
沙羅はもうすっかり弱っている。もう助からないかもしれない。でも・・・・・。
「沙羅・・・・ああ、沙羅、すまない」
俺はただただ、謝ることしかできなかった。こんな俺のせいで、何の罪もない二人が・・・・。

こんな・・・・こんなことが。

「痛い・・・・痛いよ・・・・お父さん・・・・助けて」
「沙羅、待ってろ。今、今助けて・・・・・」
そうは言っても、気が動転し、すっかり冷静さをなくしていた俺は、わが子を抱きかかえたまま、何もできずにいた。そもそも、盗みの技術はあっても、その他の技術のない俺にはどうすることもできないのだ。

俺は、沙羅の・・・・・わが子のいのちも・・・・助けられないのか・・・。

その事実に、ただただ愕然とするしかなかった。そして心の底から憎悪した。人から奪うことはできても、人を守ることができない俺自身を、心から。

苦しむ人

「お父さん、痛いよ、血が、止まらないよ」
わが子が俺の腕の中で、痛みに呻いて泣いている。しかし俺は何もできない。何もしてやれない。

俺は・・・・・・俺は!

お父さん、何してるの?どうして何もしてくれないの?
なんで・・・・・どうして?

「お父さん・・・・・お父・・・・さん・・・・・・」
そして沙羅は、あの子は、逝ってしまった。俺の腕の中で、一筋の涙を流して・・・・・。

第2楽章(完)

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