第1楽章 DAWN OF DREAMS―前編―
投稿日:2022年04月28日投稿者:じゅうべい(Jubei)
カテゴリー:第7遊行 光へと続く新しい明日を , 平安仏教聖伝―阿弥陀聖(ひじり)空也編―
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前編:どんなに闇が深くても、それだけはずっと信じていたい。
羅城門の下で病に苦しんでいた女とその妹のレン。そして大きな白い犬の小太郎。彼女たちは私、空也と善友の蓮性に連れられて、共に鴻臚館で過ごす日々を送ることとなった。
二町分(縦二四〇m、横一二〇m)の敷地を持つ鴻臚館は、私たち四人と一匹が安息を得るには十分すぎる広さだ。ここならば、彼女たちも比較的安全に過ごすことができるだろう。
「しかし、あなたがたはなぜ羅城門に。あそこに住んでいたのですか?」
羅城門で病に苦しんでいた女。彼女は名前をお邑(おゆう)といった。
「ええ。でも私たちは、もとよりあの羅城門を住処としていたわけではありません」
床に敷かれた筵に身を横たえて養生していたお邑。そんな彼女がある日、半身を起こして私とお話をしていた時のことだ。
「私は、もとは京の都に居を構える貧しい貴族の一人娘だったのです」
彼女はゆっくりと、私にそう話してくれたのだった。
私の家は、その貧しさゆえに家は決して裕福ではありませんでした。父や母は、私にもっといい暮らしをさせてやりたい、いい婿をとって幸せになってもらいたい、と常々願っては嘆いていたのを今でも思い出します。しかし当の私は、そのようなことは少しも気になりませんでした。
私には、そんなことは本当にどうでもよかったのです。
貧しくてもいい。暮らしてゆける家があればそれでいい。心やさしいお父さまとお母さまがそばにいてくれれば、私はそれで十分。他にはもう、何もいらなかったのですから。
それは本当に穏やかで、やさしくて、幸せな日々だった。
本当に、本当に、楽しかった。
でも・・・・・でも。
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そう言うと、お邑は急に胸を押さえてかがみ込んだ。何かを、何かを必至にこらえている。そして耳を澄ませると、かすかに聞こえてきたのだった。むせび泣き、小さくしゃくりあげている、その声が。
そして・・・・・。
痛みが、失くしたものの痛みが、悲しみが、彼女の胸を今、突き刺しているのだろうか。
だとしたら・・・・・これほどつらいことは・・・・・ない。
それは、私にも、よく、わかるのだ。同じだから。私も、同じだから。
痛みは消えない。悲しみも、決して消えることはない。
でも・・・・・・でも。
だいじょうぶ・・・・きっとだいじょうぶだから。きっと、きっと。
それだけはずっと、信じていたい。
そんな思いを抱きながら、私はお邑の背中をさすってあげるのだった。
やさしく、ゆっくりと、穏やかに。
やがて落ち着きを取り戻したお邑は、身体を起こし、また少しずつ話を始めてくれたのだった。
「中編:DAWN OF DREAMS―夢の夜明け―」へとつづく。
この記事を書いた人
じゅうべい(Jubei)
みなさんこんにちは。今日も元気がとまらない地球人、じゅうべいです。好きなことは遊ぶこと(漫画に映画、音楽(Jロック等)にカフェ巡り)です。
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