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前編:悪業の果て

妻である摩耶と娘である沙羅に隠していたこと。それは、俺が盗人として都で活動していたことだった。もちろん二人にはそんなことは一度も話していない。かつて摩耶に助けられた時も、それは言わなかった。二人には宮仕えをする侍(貴族に仕え、身辺警護や雑役に従事する身分の低い男)と身分を偽り、その実は盗人として夜な夜な貴族の家々から金品を奪い取る。それが俺の本当の姿だった。

やめなければならない。二人のためにも、こんなことはやめなければ。

何度も何度も心の中でそう思った。しかしどうしてもそれはできなかった。それ以外の生き方を俺は知らなかったのだから。飢饉と洪水に遭った村を出て都に流れ着き、仕えていた貴族に見捨てられて以来、俺は盗人以外の生き方をしたことがなかったのだ。それ以外の技術もなかった。そして何より、貴族に見捨てられて以来貴族とともに歩んでいく自信を失くしていた俺は、人と人の健全なつながりを作ることも叶わなかった。

結局俺は、盗人として生きるほかに選択肢が思いつかなかったんだ。

俺はその時からすでに、名の知れた盗賊として都で知られるようになっており、群盗仲間とともに都中の貴族の家々に盗みに入っていた。

皮肉なものだ。

絶望的な状況を脱しようと都に出てきたはずが、様々な事情によって都で暮らせなくなった者同士で寄り合い、こうして群盗となって活動することになったのだから。こんな俺たちには、もはや神も仏も振り向いてはくれないだろう。

地獄の世界

いや、そもそも仏は造寺・造仏・写経をしなくてはご利益を与えてくれはしない。とすれば、盗みをはたらき殺生を重ねる俺たちにあるのは、生きても地獄、死んでも地獄の世界だけだ。神や仏に見放された俺たちが信じられるのは己だけ。己だけを信じ、この世界で生きるしかないのだ。

そんな俺たちがついに、本物の地獄に堕ちる時が来たのは、
逃れられない運命だったのかもしれない。

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俺はその夜、深手を負ってある貴族の家から命からがら逃げ出していた。とある有名な貴族の家に案内の人(屋敷の事情に通じる人)の手引きで忍び込み、強盗を働こうとしていた時だ。どうやら仲間の中に裏切り者がいたらしい。そいつが事前に貴族に密告したせいで、俺たちは罠に嵌められることになったのだ。邸の中に入った瞬間、俺たちは総勢五十人もの猛者たちに囲まれた。袋の鼠同然となった俺たちは、その中でさんざんに弓で射られ太刀で斬られ、壮絶な血しぶき舞い踊る地獄の修羅場で次々と惨殺されていった。一人残らず、容赦なく。

俺は不覚にも、また貴族と腕に覚えのある猛者の張った罠にはまってしまったのだ。傷つきながらも、俺は一人なんとか気力を振り絞って邸を脱出し、ひたすら走った。暗い道をただひたすら、清水のわが家に向かって全力で走っていた。嫌な予感がしていたのだ。血しぶき舞い散る地獄の中、猛者の放った一言がずっと心にひっかかってはなれなかった。

「お前たちの隠れ家は内通者によってすべて把握してある。
どこに逃げても無駄だ」

奴らが内通の者を放ってすべてを把握しているとしたら・・・・。

・・・・・摩耶、沙羅!

だから俺は走った。家族二人がいるその場所へ、全力で夜道を走りぬいたのだ。俺は祈った。奴らがわが家を隠れ家として把握していないことを、祈るしかなかった。

神よ、仏よ、俺はどうなってもいい。どうなってもいいから、だからあの子だけは、妻だけは・・・・・。

どうか・・・・どうか助けてください。

俺はその時、生まれて初めて神と仏に祈りを捧げていたことに気づいたのだった。

「後編につづく」

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