第1楽章 DAWN OF DREAMS―中編―
投稿日:2022年05月02日投稿者:じゅうべい(Jubei)
カテゴリー:第7遊行 光へと続く新しい明日を , 平安仏教聖伝―阿弥陀聖(ひじり)空也編―
adsense4
中編:DAWN OF DREAMS-夢の夜明け―
お父さま・・・・お母さま・・・・・・・。
私、お邑の中で、お父さまとお母さまの幻影が浮かんでは、崩れるように消えてゆく。今はもう、どこにもいなくなってしまった二人を求め、私はずっと生きてきた。
そしてそのたびに、悪夢が私をよびさます。
そう、あれは・・・・あれはあまりにも突然で、あまりにも理不尽な出来事だった。
お父さま・・・・お母さま・・・・待ってて。私が必ず、必ず助けるから。
だから・・・・だから・・・・・。
お願い、死なないで。
・・・・・でも、でもその甲斐もなく二人は・・・・・・・お父さまとお母さまは・・・・・。
そこまで言うと、お邑は耐えきれずに手で口を押さえ、身体を震わせうつむいて嗚咽を漏らし始める。
私は・・・・私は・・・・・。
なにも・・・・なにもできなかった。
二人を・・・・・救えなかった。
・・・・・お父さま、お母さま・・・・・。
私、お邑はうつむきながら、心の中で何度も何度もその名を叫んでいた。
お願い、お願いだから、目を開けて。
ああ、またやってくる。私の中でまた、あの日のことが・・・・・。
いや・・・・いや・・・・ひとりにしないで。おいていかないで。
お願い、助けて。だれか助けて。
私をひとりに・・・・・しないで・・・・。お願い。
・・・・止まらない・・・・身体の震えが、涙が、痛みが・・・・止まらない。
あの日の記憶が悪霊となって私の中を支配しはじている。また、悪霊が私を・・・・・。
・・・・・なぜ・・・・?・・・・どうして・・・・?
私は苦しみの中で終わらない自問自答を繰り返す。
どうして私はこんな痛みに耐えなければならないの?
私が何をしたっていうの?何もしていないのに、どうして私がこんな目に。
私はただ、お父さまとお母さまと、一緒にいたかっただけ・・・・なのに。
adsense2
震えが止まらない。痛みが消えない。悲しみが、消えてくれない。
果てのない暗闇がまた、私を覆い包んでいる。
助けて。だれか・・・・助けて。
「・・・じょうぶ・・・・・だいじょうぶ・・・・・」
・・・・え?
「だいじょうぶだよ」
声・・・・が・・・・・・・聞こえる?
「だいじょうぶだから」
だれ・・・・・?
暗闇にいる私に、声をかけて・・・・くれている。誰かが、私に。
・・・・・だれ?
「さあ、落ち着いて、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
気がつくと、私はあの日の悪夢の世界から立ち戻っていました。すぐ隣に空也様の顏が見えます。その人が、やさしく、ゆっくりと、私の背中をさすってくれている。やさしく、柔和で、穏やかな表情をたたえながら、私を・・・・・・。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「だいじょうぶだよ」
あなたの痛みも悲しみも、全部あなたのせいじゃない。
あなたは何も悪くない。何も悪くないんだよ。
だからだいじょうぶ・・・・・・だいじょうぶ・・・・。
「ごめんなさい・・・・・ごめんなさい・・・・!」
お邑はそう言うやいなや、突然私の胸にすがりついてきた。そして全身に力が入ったかと思った刹那、声をあげて大きく泣いたのである。身体を震わせ全身から滂沱の涙を流しながら。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!!」
ごめんなさい・・・・助けてあげられなくて、守ってあげられなくて・・・・・。
ごめんなさい。
そんなお邑を前にして、私、空也はやさしく抱きしめる。やさしく心を抱きしめて、彼女のすべてを受け止める。
よしよし、だいじょうぶ、だいじょうぶ。
彼女の背中をさすりながら、彼女の頭を撫でながら、私はすべてを受け止める。
あなたは何も悪くない。何も悪くないんだよ。
辛かったね、痛かったね、悲しかったよね。
でも、もういい。もういいんだよ。だからもうこれ以上、自分を責めないで。
あなたは何も、悪くないから。
「後編:魂のゆくえ」へとつづく。
この記事を書いた人
じゅうべい(Jubei)
みなさんこんにちは。今日も元気がとまらない地球人、じゅうべいです。好きなことは遊ぶこと(漫画に映画、音楽(Jロック等)にカフェ巡り)です。
よろしくお願いします。