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後編:哀しみ・愛・そして・・・・・

怪我が治りきっていなかった俺は、女に支えられながら建物の外に出て、そばにあった木の長椅子に二人で腰掛ける。ふと、何気なく空を見上げると、幾つもの小さな星たちが夜空の上で煌めいている姿が目に映った。

夜空にきらめく星々

ここから俺たちを見下ろしている幾つもの星々。あの星たちは、俺が抱える苦悩など知る由もないだろう。星たちは今日も、あの空の上で、何の苦悩もなく、何も知ることなく、純粋に輝きを放ち続けるのだろう。しかし、俺は・・・・・。
「私は時々、こうして外に出て星たちを眺めているのです。寝られない夜は、特に」
女がそう口を開く。

「あんたでも寝られない夜があるのか?」
少し意外だった。俺はこの女を数日間見ていたが、どんな時でも気品があって、慈悲深く病人や貧困者の世話をするその姿からは、そんなふうには微塵も感じなかったからだ。

「ええ、私も時々、夢に見るのです。今は亡き父や母の夢を。父や母は私の唯一の家族で、ほかの誰よりも信頼し、誰よりも深くお慕いしておりました。しかし、今はもう・・・・」
女は悲しそうに目を伏せ、右手でぎゅっと胸を押さえた。

女は俺にかつての身の上を語ってくれた。自分はかつて京に住むある貴族の娘であったこと。しかしある時、流行り病によって突然父と母が死んでしまって一人になってしまったこと。そして荒れはてゆく家を捨てて、都を放浪する孤児となってしまったこと。

今の都では、俺のほかにも孤独に喘ぐ人々がたくさんいる。
今、京の都は病んでいる。
だからこそ、心からの平安を求めているのかもしれない。

「心から慕っていた、頼りにしていた人が突然死ぬというのは、やはり・・・やはりつろうございます。その悲しみは、痛みは、今も私の中に残り続けている。そしておそらく、これからも永遠に私の中に残り続けるでしょう」
月明かりに照らされて、女の顔に涙の筋が走っているのが見えた。女はその涙を手で拭ってふきとる。
「だからこそ、私はこうして夜、星を眺めるのです。星たちは、どんな時でも空から私たちを見守っている。もしかすると、父や母も星となって私を見守ってくれているのかもしれない。そんな気がいたしますから」

俺は再び空に煌めく星々に目をやった。

夜空にきらめく星々

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摩耶、沙羅、お前たちもそこにいるのか。お前たちも今、星になって俺を空から見守ってくれているのか。いや、どうだろうな。どうしようもなく罪深い身の俺を、お前たちは見守ってくれているだろうか。だって俺のせいで、お前たちは・・・・・。

「俺も」
俺はその時、自然と女に向かって口を開いていた。
「俺も、なくしたんだ、大切なもの。俺にとって最も大切なものを」
女が俺の方を見ている。
「でも・・・・でも二人は、俺のせいで二人は」

俺は辛くなって目を伏せた。またつらい気持ちが蘇ってくる。たまらなくなって暗闇の中で目を閉じた。思い出すだけでもどんなに辛いことか。それは俺の悲しみを呼び起こし、痛みを身体にもたらして、深い深い罪の意識を俺に芽生えさせるのだから。

そう思っていると、ふと、投げ出していた片方の手に温かい手が触れる。

触れ合う手と手

その手はゆっくりと、俺の冷たくなった手をさすってくれている。俺が再び目を開けて女の方を見ると、女は俺の方を見てゆっくりと一回頷いてみせる。その両目に涙をためながら、やさしく、ゆっくりと。
「痛みを、悲しみを、自分の中だけにしまわないで下さい。私でよければ、ぜんぶ受け止めます。あなたの痛みを、悲しみを、ぜんぶ、私が」と、もう片方の手のひらを自分の胸にあてた。
「でも・・・・・」
「大丈夫、私は見捨てない。どんなことを聞いても、何があっても、私はあなたを見捨てない、絶対に・・・・・」

見捨てない。

女の目には、何か強い意志が宿っていた。やさしく、それでいて何があっても揺るがない意志のようなものが、そこにあるように感じた。

この人になら、話せるかもしれない。
この人に話したら、何かが変わるかもしれない。

そう思ったからかもしれない。俺はゆっくりと、俺のことを話し始めた。かつての俺のこと。かつての愛する家族のことを。

第9遊行(完)

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